中煎り豆のバランスを引き出す 浸漬式ドリッパーの基本とコツ
浸漬式ドリッパーとは? 中煎り豆との相性
コーヒーを美味しく淹れる方法は多岐にわたります。ペーパードリップが代表的ですが、最近注目されているのが「浸漬式(しんししき)ドリッパー」です。これは、お湯とコーヒー粉を一定時間完全に浸け置き(浸漬)してから抽出する方式のドリッパーです。代表的なものには、底の弁を開閉できるハリオスイッチや、ストッパー付きのクレバーコーヒードリッパーなどがあります。
浸漬式ドリッパーの最大の特長は、お湯とコーヒー粉の接触時間が一定になるため、抽出が安定しやすい点です。これは、お湯の注ぎ方や速度による影響が少ないため、コーヒー初心者の方でも比較的簡単に毎回同じような味わいを再現しやすいという利点につながります。
この記事では、この浸漬式ドリッパーを使って、特に「中煎り」のコーヒー豆を美味しく淹れるための方法をご紹介します。中煎り豆は、コーヒー豆が持つ酸味、苦味、コク、香りのバランスが最も取れていると言われています。浸漬式ドリッパーの安定した抽出は、この中煎り豆の持つ複雑で調和の取れた風味を最大限に引き出すのに非常に適しています。この記事の手順とコツを知れば、ご自宅で安定して美味しい中煎りコーヒーを楽しむことができるでしょう。
この淹れ方に必要なもの
浸漬式ドリッパーで中煎りコーヒーを淹れるために必要な器具と材料はこちらです。
- 浸漬式ドリッパー: ハリオスイッチ、クレバーコーヒードリッパーなど、底に弁やストッパーがあるタイプのもの。
- ペーパーフィルター: ドリッパーのサイズに合ったもの。
- コーヒサーバー: 抽出されたコーヒーを受けるためのもの。
- スケール(はかり): コーヒー豆とお湯の量を正確に計量するために必須です。
- タイマー: 浸漬時間と抽出時間を計るために使用します。
- コーヒーケトル: 細口のものであれば、蒸らしの際などにお湯を注ぎやすいですが、一般的なケトルでも淹れることは可能です。
- 中煎りのコーヒー豆: 1杯分あたり15g程度を目安とします。
- お湯: 1杯分あたり240g程度を目安とします。湯温は後述のポイントで解説します。
コーヒー豆の挽き目: 浸漬式ドリッパーでは、ペーパードリップの時よりもやや粗挽きにすることをおすすめします。挽き目が細すぎると、お湯との接触時間が長いことで過抽出になりやすく、雑味や苦味が出やすいためです。グラニュー糖より少し大きい粒を目安にすると良いでしょう。
具体的な淹れ方手順
ここでは、一般的な浸漬式ドリッパー(バルブ開閉式を想定)を使った淹れ方手順を解説します。
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準備:
- ペーパーフィルターをドリッパーにセットします。
- セットしたフィルターに少量のお湯をかけ、リンス(湯通し)をします。これは紙の匂いを消し、ドリッパー全体を温める目的があります。リンスのお湯は必ず捨ててください。
- サーバーの上にスケールを置き、その上にドリッパーをセットします。スケールの表示をゼロにします(風袋引き)。
- 中煎りのコーヒー豆15gを計量し、やや粗挽きに挽いてドリッパーに入れます。
- お湯を沸かし、適切な温度に調整しておきます。
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蒸らし(バルブは閉じたまま):
- バルブが閉じていることを確認します。
- タイマーをスタートさせ、コーヒー粉全体が湿る程度の少量のお湯(豆の重さの2〜3倍、約30g)を粉の中心から外側へ円を描くようにゆっくりと注ぎます。
- 注いだら、そのまま20秒から30秒ほど蒸らします。この時、コーヒー粉が膨らんでくるのが確認できます(ブルーミング)。これはコーヒー豆に含まれるガスが放出されている証拠です。
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お湯の全量投入:
- 蒸らしが終わったら、残りの必要量(例:240g - 30g = 210g)のお湯を、静かに一度に注ぎ入れます。中心から始め、円を描くように全体に行き渡らせます。粉全体がお湯の中に均一に浸かるようにします。
- 注ぎ終えたら、必要に応じてスプーンなどで軽く混ぜ、粉が均一に浸るようにしても良いでしょう。
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浸漬:
- お湯を注ぎ終えたら、タイマーを見ながらそのまま浸漬させます。推奨される浸漬時間は、お湯を注ぎ始めてから合計で2分〜3分程度です。この時間はお好みで調整可能です。
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抽出:
- 浸漬時間が経過したら、ドリッパーの下にあるバルブを開けるか、サーバーにセットしてストッパーを外し、コーヒーをサーバーへ落とします。
- お湯がすべて落ちきるまで待ちます。
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完成:
- サーバーに抽出されたコーヒーをカップに注いで完成です。
美味しく淹れるためのポイント・コツ
なぜ浸漬式が安定しやすいのか
浸漬式は、ペーパードリップのように常にお湯が流れ続ける「透過式」とは異なり、お湯とコーヒー粉が一定時間同じ空間に留まります。これにより、お湯と粉の接触時間が均一になり、誰が淹れても比較的安定した抽出結果を得やすくなります。抽出ムラの原因となるお湯の注ぎ方の技術差が出にくいことが、初心者の方にもおすすめできる大きな理由です。
中煎り豆に合わせた湯温
中煎り豆は、浅煎りほど高温(90℃以上)、深煎りほど低温(85℃以下)でなくても、バランス良く抽出できるため、比較的水温の許容範囲が広いです。しかし、中煎り豆の持つ酸味と甘みのバランスを最大限に引き出すには、88℃〜92℃程度の湯温が適しています。温度が高すぎると苦味や雑味が出やすく、低すぎると酸味だけが際立ったり、ボディ感が不足したりすることがあります。湯温計を使って正確な温度を心がけましょう。
やや粗挽きにする理由
前述の通り、浸漬式ではお湯と粉の接触時間が長くなります。ペーパードリップと同じ細かさで挽いてしまうと、成分が出すぎてしまい、過抽出による苦味やえぐみが出やすくなります。そのため、やや粗挽きにすることで、適切な成分の抽出速度に調整し、クリアでバランスの取れた味わいを目指します。
浸漬時間の調整
浸漬時間は、コーヒーの濃度や風味を調整する重要な要素です。 * 浸漬時間を長くする: 濃度が高まり、ボディ感が強くなる傾向があります。ただし、長すぎると過抽出になり、苦味や雑味が出やすくなります。 * 浸漬時間を短くする: 濃度が薄くなり、すっきりとした味わいになります。ボディ感は弱まる傾向があります。
初めて淹れる際は、推奨時間の2分〜3分を目安にし、次回以降、お好みに合わせて15秒〜30秒程度調整してみると良いでしょう。
正確な計量の重要性
コーヒー豆の量とお湯の量を正確に計量することは、安定した抽出のために最も基本的ながら非常に重要なポイントです。スケールを使うことで、毎回同じ条件で淹れることが可能になり、味のブレを減らすことができます。レシピ通りに淹れても味が安定しない場合は、まず計量が正確に行われているか確認してください。
まとめ
浸漬式ドリッパーは、お湯の注ぎ方による影響が少なく、初心者の方でも安定して美味しいコーヒーを淹れることができる優れた器具です。特に中煎りのコーヒー豆は、そのバランスの良さが浸漬式抽出と非常に相性が良く、豆本来の持つ風味を最大限に引き出しやすい組み合わせと言えます。
今回ご紹介した手順は、浸漬式ドリッパーを使った中煎りコーヒーの基本的な淹れ方です。この基本をマスターしたら、湯温、浸漬時間、挽き目などを少しずつ調整して、ご自身にとって最高のバランスを見つけていくのもコーヒーの楽しみの一つです。
ぜひ、この記事を参考に、浸漬式ドリッパーで淹れる中煎りコーヒーの安定した美味しさを体験してみてください。